アメリカは、日本の原発に迫る新たな脅威を警戒している

http://www.nytimes.com/2011/04/06/world/asia/06nuclear.html

The New York Times April 5, 2011ニューヨークタイムズ 2011年4月5日

By JAMES GLANZ and WILLIAM J. BROADジェームス・グランツとウィリアム・J・ブロード


日本の原発事故の救援に現地に送られたアメリカ政府の技術者たちは、問題を起こした原発が、一連の新たな脅威に直面していると警告を発している。それらの脅威はいずれも際限なく続く可能性があり、そのうちのいくつかは、原発の安定化のためにとられた処置そのものの結果として、今後いっそう深刻化することが見込まれる、とアメリカ合衆国原子力規制委員会の極秘報告書は伝えている。


3月26日付のこの報告書で指摘された新たな脅威のうちには、冷却のため放射能汚染された水で満たされている格納器における圧力の上昇がある。このため格納器は、3月11日の地震津波のあと続いている余震によっていっそう壊れやすくなっているという。この文書はまた、原子炉内に注入された海水からの水素と酸素の放出によって、格納器内部で爆発が起こる可能性があると指摘し、半ば溶解した燃料棒と塩の凝固物が、どの程度まで炉心を冷やすための冷水の注入の障碍となっているかについて、新たな詳細情報を示している。


このところ現場の労働者たちは、原発における核燃料の加熱を防ぐためにとられた非常手段がもたらした副産物の対処に追われてきた。その副産物の一端が、放射能汚染された水の漏出であり、この水に足を踏み入れた労働者の放射能による火傷である。報告書と、この報告書をよく知る担当者たちは、水の注入によって、労働者の安全と原子炉の復旧および長期的な安定を脅かす、数々の困難な問題が生じていると伝えている。


報告書は、新たな爆発や余震による被害がどれほどの蓋然性で起こりうるかを立ち入って論じてはいないものの、そのいずれかが起これば、事故を起こした複数の原子炉の一つないし複数で、炉心からのいっそう深刻な放射能漏れを防いでいる格納器が損害を受けることになるだろう。原子力の専門家の話では、冷却がうまく行かず、核燃料が加熱と溶解を続ける場合にも、放射性物質の固まりが漏れ出し、長期間にわたって溶解したままの状態にとどまることになるはずだという。


ニューヨーク・タイムズが入手した文書は、福島第一原発でのこれ以上の燃料溶解を防ぐために奮闘するかたわらで、日本が新たに直面しつつある難題について、これまで日本側から公式発表されてきた以上に詳細な技術的報告を示している。しかし、この報告書が依拠しているデータのほとんどは、アメリカ側の専門家と日本側で共有されているものと考えられる。


その他、この文書が指摘するのは、原子炉の冷却機能が失われたままの状態で、核燃料の冷却のためにいったいどこまで水の注入を続けられるか、という新たな問題である。専門家たちはこれまで、原発が安定するまでには何ヶ月にもわたって燃料を冷やしつづける必要があると主張してきたが、この燃料への水の注入自体が、まったく新しい問題を生み出しつつあるということが次第に明らかになりつつある。しかし、東京電力側はそのことに気づき始めたばかりで、問題の全貌を把握するにはほど遠い。


この文書はまた、原子炉の上にある使用済み核燃料プールから、使用済み核燃料の破片や粉塵が、「原発から一マイル(約1.6 km)四方にまで」飛び散っていること、放射性の高い物質が二つの原子炉の間に散乱しているので、おそらくは労働者の安全の確保のため、この放射性物質を「ブルドーザーで撤去」しなければならないことを伝えている。こうした放射性物質の放出は、事故当初の水素爆発のいずれかによって起こったと考えられるものであり、きわめて放射性の高い(使用済み核燃料の)プールが、これまで公表されてきた以上に重大な損害を受けたことを示唆している。


フクシマで用いられているのと同種のジェネラル・エレクトリック社製原子炉の開発に携わったことのある技術者であり、現在「憂慮する科学者の会Union of Concerned Scientists」の原子力安全プロジェクトを指揮する、デーヴィッド・A・ロックバウムは、件の報告書で明かされた三つの原子炉の状態の深刻さに照らせば、事態がうまく収拾するかどうかはいっそう不確かになったと考えざるをえない、と言う。


「私は、彼らは危機を脱したというにはまだ早いにしても、危機から抜け出しつつあるのだと思っていました」、とロックバウム氏は言う。ちなみにロックバウム氏自身はこの報告書の作成に参加していない。「しかし、この文書が示すのはまったく違った展望です。この文書によると、事態はずっと深刻なのだと考えざるをえません。こうした個々の問題のうち、いずれかがうまく行かなければ、彼らはより大々的で深刻な被害を受けることになるかもしれない。」


原子力規制委員会が推奨した打開策のひとつが、格納器への窒素ガスの注入である。こうすることで、格納器の中から水素と酸素を追い出し、それらが結合して爆発を起こすのを防ごうというのである。水曜日(3月30日)、フクシマの原子力発電所を操業している東京電力は、この策をとり、格納器の一つに窒素の注入を準備していることを明らかにした。


報告書はさらに、現場技術者に対して、冷却用の水にこれまで通りホウ酸を加えつづけることを推奨している。これは、炉心の燃料がふたたび反応を始め、臨界にいたることを防ぐための方策である。


とはいえ、この報告書を作成した技術者たちは、再臨界がすぐにでも起こりそうだと考えているわけではない。電力研究所(Electric Power Research Institute)の原子力部門の副代表、ニール・ウィルムスハーストは、この報告書についての取材に対して、次のように答えている。「現時点では、私は再臨界が進行中であることを示唆するデータを目にしてはいない」。ウィルムスハースト氏は、この報告書の作成にも参加している。


この文書は、日本政府と東京電力を救援中の、合衆国原子力規制委員会・原子炉安全チームのために作成された。文書は日米の諸機関から収集した「最新データ」に基づくものであり、こうした諸機関の中には、東京電力、日本の原子力産業協会、アメリカ合衆国エネルギー省、ジェネラル・エレクトリック、そして独立のNPOである電力研究所が含まれる。


この文書には、発電所がもつ6基の原子炉それぞれについての詳細な状況分析と、今後とるべき方策の提案が含まれている。内容に詳しい原子力の専門家らによると、同文書は定期的に更新されているが、3月26日のヴァージョンは総じて、現時点での方針を忠実に反映しているという。


この報告書には、1号機、2号機、3号機の損傷した炉心部の状態について、新しい詳細な図版が掲載されている。おそらく、落下した燃料棒と、冷却に使われた海水から生じる塩が水の循環経路をふさいでいるため、1号機の水の流れは「いちじるしく制限されており、遮断されていることもありうる」。また、この1号機の炉心内部では「おそらく水位がゼロになっている」という。その結果「冷却の効果が、どれくらい燃料棒に達しているのか判断しがたい」と、付言している。報告書によると、おそらく水流のつまり具合はそれほどひどくないものの、2号機、3号機でも同様の問題が生じている。


原子力の専門家らによれば、先週、海水から真水の冷却に切り換えたことで、塩は洗い流されている可能性もあるという。


格納器内の水位が上昇すれば、燃料棒は水に浸かり、冷却できるかもしれない、とされることが多い。しかしこの報告書では、「格納器が水でいっぱいになった場合、その水圧が容器の耐震性に及ぼしうる影響を考慮しなければならない」と警告する。


原子炉設計の専門家らによれば、この警告は、水位の上昇が格納器にもたらしている桁外れの荷重を念頭においたものだ。容器に水が入れば入るほど、大きな余震によって亀裂が生じる可能性も高くなるのである。


ジェネラル・エレクトリック社で原子炉の設計者として働いていたマーガレット・ハーディングは余震の危険について警告しつつ、こう述べる。「私が日本人だったら、何トンもの水を格納器にためておこうとは思わないでしょう。地震の後、格納器の構造が傷ついていないかどうか、確認されていないのですから。」


原子力規制委員会の文書はまた、放射能の高い環境のなかで海水から放出された水素と酸素のため、コンクリートと鋼鉄でできた格納容器内部で「危険な気体成分」が生じている可能性を憂慮している。


災害から数日間に起こった水素爆発は、いくつもの原子炉の建屋に大きな損傷を与えており、ある原子炉[2号機]では格納器が破損している可能性もある。この水素は、燃料棒を保護する金属製被覆管などの機構から生じたものだ【注】。同文書は、東京電力が、格納器の水素や酸素を除去する機能を回復させ、不活性な窒素ガスを注入するよう強く求めている。こうした[漏れ出た蒸気を除去する]機能は地震津波以来、失われたままになっている。
【注:燃料の被覆管にはジルコニウム合金が用いられるが、ジルコニウム合金は高温で水と反応して酸化しやすく、その際、水素ガスの放出をともなう。http://en.wikipedia.org/wiki/Zirconium_alloy


原子力の専門家によると、炉心部からの放射線は水分子を分解し、水素を生み出す可能性がある。ウィルムスハースト氏は、3月26日の文書以降、技術者たちが計算したところでは、水素の発生量は多くない、と述べている。だが、ノートルダム大学の物理学者ジェイ・A・ラヴァーン氏は、少なくとも燃料棒付近では、実際に一定量の水素が発生しており、酸素と反応する可能性がある、としている。「もしそうだとすれば」とラヴァーン氏はインタビューに答えて述べた。「燃料棒の付近で、爆発の危険性が高い気体の混合物が生じていることになります。」


ここ数日、原子力技術者らは、格納容器の外にある、使用済み核燃料の保管プールのほうが、溶融した炉心部よりさらに危険が高いと警告している。このプールは、原子炉建屋の上にあり、使用済み核燃料を水に浸しておくためのものだが、その冷却システムはダウンしたままだ。


原子力規制委員会の報告書は、4号機の使用済み核燃料プールが震災直後の水素爆発でダメージを受け、周囲に大量の放射性物質を放出した可能性が高いことを示唆している。報告書はこれを「重大なソースターム放出」【注】と呼んでいる。
【注:「ソースターム」は、原発事故などで放出される放射性物質の種類・量・放出継続期間などのデータを指す用語。http://www.rist.or.jp/atomica/dic/dic_detail.php?Dic_Key=543 を参照】


専門家らが使用済み核燃料プールに憂慮しているのは、これまでの爆発で建屋が吹き飛び、その放射性物質が露出しているためである。それに比べれば、原子炉は堅固な圧力容器をそなえており、炉心内で燃料のメルトダウンが起こってもまだ放射能をせき止めておける見こみがある。


「世界一の曲芸師でも、一度にさばけるお手玉の数には限界があるでしょう。」ロックバウム氏は、福島第一原発がかかえる問題の多さについて、こう述べた。「これからも片づけなければならない厄介な問題が山のようにあります。ひとつやり方を間違えば、状況はずっとずっと悪くなるかもしれないのです。」


ニューヨーク、ヘンリー・ファウンテンとワシントン、マシュー・L・ウォールド協力。


(trad. KO & SS)


参考)京大原子炉・小出裕章再臨界の可能性」全文聞き起こし(たねまきジャーナル・MBS毎日放送ラジオ)http://www.asyura2.com/11/genpatu8/msg/632.html


告知1:浜岡原発すぐ止めて! 東京―市民集会&デモ 2011/4/10(日)
集会開始 13 :00〜 芝公園 23号地
デモ出発 14 :00〜
http://lumokurago.exblog.jp/16144345/


告知2:4.10 高円寺・原発やめろデモ!!!!!!
14:00 高円寺中央公園(駅南口徒歩1分)に集合
15:00 デモ出発!!!!! 
新高円寺駅、東高円寺駅を通り、一周して高円寺駅北口解散!
http://410nonuke.tumblr.com/


告知3: 原発いらん! 関西行動 2011/4/16(土)
15:30〜 大阪・中之島公園 集会
16:10〜17:30 御堂筋デモ

www.jca.apc.org/mihama/annai/demo110416.pdf