日本の原子炉の欠陥はアメリカに警告している


http://www.nytimes.com/2011/05/18/world/asia/18japan.html?_r=2&src=tptw&pagewanted=all


The New York Times, May 17, 2011 ニューヨーク・タイムズ 2011年5月17日


ヒロコ・タブチ、キース・ブラッドシャー、マシュー・L・ワルド


東京――アメリカの当局者は、非常用ベントによって合州国原子力発電所は壊滅的な水素爆発を防げると言ってきたが、日本で試みられたそのベントは機能しなかった――専門家たち、そして機能不全に陥った福島第一発電所を操業する電力会社の担当者たちはそう言っている。

このベントの失敗は、合州国と日本における同種の原子力発電所の安全性を疑問に付すものだ。日本の原子力安全・保安院によれば、福島第一原子力発電所でベントが失敗したあと、水素ガスが爆発し、大気中に撒き散らされた放射性物質チェルノブイリにおける概算放出量の10パーセントに達した。

発電所の命運を握る冷却システムを3月11日の津波が襲ったあと、いくつかの原子炉の内部で高まっていた圧力を軽減するために、ベントは決定的に重要だった。冷却用の循環水がなくなってから、原子炉の炉心は危険な水準まで過熱しはじめていたのである。

アメリカの当局者は、合州国の原子炉はより強力で新しいベントシステムを備えているので、こうした惨事の危険はないとしてきた。しかし、福島第一原発を操業している東京電力によれば、同発電所合州国のものと同じベントシステムを数年前に設置していたという。

また、何人かの日本政府高官によると、件の爆発の主要な原因のひとつは、東京電力の経営陣が、相当量の放射性物質を空気中に放出するという非常手段に訴えるかどうかを躊躇したために、ベントを用いる決定が数時間遅れてしまったことにあるという。

だが、東京電力が今週公開した資料や専門家のインタビューは、ベントシステムの機械の故障と設計上の欠陥もベントの遅れの一因だったという、さらに重大な事実を疑いえないものとしている。これらの資料は、事故発生後の最初の数時間のあいだに、ようやくベントに向けて動き出した作業員たちが、システムが思うように動かないことを知った際に、原発内でどれほど絶望感が高まったかをまざまざと描き出している。

ベントはたしかになにがしかの放射性物質を放出することにはなっただろう。しかし専門家の分析によれば、この放出は、それに続く原発の三つの原子炉における爆発よりも、はるかに規模の小さな放出で済んだはずだ。これらの爆発は、破局を防ぐための最前線に位置づけられる格納建屋を吹き飛ばしてしまったからである。また、これらの爆発は格納容器に亀裂を生じさせ、燃料棒を冷却したり、原発敷地内からの放射性物質の漏洩を抑えたりするための努力を困難にしてしまったと思われる。

ゼネラル・エレクトリック社(GE)によって建設された原発のベントシステムが作動しなかったひとつの理由は、この設備が原発の他の部分と同じ電源に依存していたことにある。発電所の基礎部分に設置された、この予備発電機は津波を前にしてひとたまりもなかった。しかし、東京電力の担当者によれば、地震によってベントシステムのバルブが損傷を受けたために、オペレーターが手動で開けようとしてもこのバルブが動かなくなっていたらしい。

いずれにせよ、GE社の設計した同種の原発の設備が、深刻な事故の際にも機能するようにしておくためには、合州国と日本の原子力規制当局は早急に、費用も時間もかかる改修や再設計の必要性を決定しなくてはならないだろう。

「日本は私たちに教訓を与えてくれています」と〈憂慮する科学者たちの同盟〉(UCS)のデイヴィッド・ロックバウムは言う。「もし、ベントをしたくてもできないような状況が生じるのなら、私たちはそれを解決しなければなりません」。

GE社側からは、木曜日の時点でコメントは出ていない。

福島原発の危機の深刻さは、地震および発電所の防潮壁を急襲した津波の数時間後には明らかになっていた。

地震のちょうど12時間後には、一号機内部の圧力は、設計上、設備が耐えることのできる最大圧力のおよそ2倍に達していた。こうして、燃料棒を入れた格納容器が破裂し、メルトダウンが始まるかもしれないという懸念が高まることになった。内部圧力が高まった結果、さらに冷却水を注入するということもできなくなっていた。

日本政府は慌てて、東京電力にベントの開始を命じた。しかし、ことここにいたっても、東京電力の経営陣は議論を続けるばかりだったと、原子炉を制御するための日本政府の努力をよく知る人物は述べている。この人物によれば、東京電力原子力担当役員である武藤栄副社長と、事故を起こした福島第一原発吉田昌郎所長は、白熱した議論のはてに「怒鳴りあい」を始めたという。なにごとにつけ控えめな日本では、めったに見られない光景である。

吉田氏が早急なベントの実行を望んだのに対し、武藤氏はベントが機能するかどうかについて懐疑的だった、と同じ人物は語っている。この人物はいまも政府の顧問を務めており、公的にコメントをすることは許されていないので、匿名を望んでいる。「なにをなすべきかについて、逡巡があり、議論があり、そして著しい混乱がありました」と彼は言う。

東京電力の経営陣がベント開始の指示を出したのは、ようやく土曜日になって、つまり津波の襲来から17時間以上、政府のベント開始命令から6時間が経ってからのことだったのである。

こうして大急ぎで新たな指示に従った作業員たちは、そこで続出する問題に直面することになった。

ベントシステムは制御室から操作できるよう設計されているのだが、オペレーターが装置を起動しようとしてもうまく行かなかった。それはおそらく、非常用バルブを開けるための電源が落ちていたせいだ。バルブは手動でも開けられるように設計されているが、東京電力の記録によれば、もはやその時には、一号機のベントシステム付近の放射能のレベルは、作業員たちにとって接近できないほど高くなっていたのだ。

二号機では、作業員たちが安全バルブを手動で開けようとしたが、原子炉内の圧力は下がらず、ベントが成功したかどうか分からなかった、と記録は示している。三号機では、七回にわたって作業員たちがバルブを開けようと試みたが無駄だったという。

ベント失敗の結果は壊滅的だった。

地震の翌日の土曜日、一号機が最初に爆発した。月曜日には三号機がそれに続き、火曜の早朝には二号機が爆発した。

爆発のたびに、放射性物質が大気中にあふれだし、震災を生き延びた数万人の周辺住民の避難を余儀なくし、農作物を汚染し、そして数日のうちには、放射性同位体の煙はわずかながら合州国にまで達することになった。原子炉建屋の航空写真は、一号機と三号機の建屋が粉々に吹き飛ばされ、もうひとつの建屋も深刻な損傷を受けたことを示している。

トラブルが重なるとともに、東京電力と日本政府の高官は一連の記者会見で、損傷の規模を示唆するようになった。それによると、これらの爆発はおそらく、メルトダウン放射性物質の大量放出を防ぐ最後の砦である格納容器に亀裂を生じさせたとみられる。

東京電力は最近になって、原発の損傷はこれまで考えられていたよりも深刻で、燃料棒は一号機、二号機、三号機で、事故の最初の数時間のあいだに完全に溶解したのがほぼ確実であること、その結果、いっそう破滅的な放射性物質の放出の危険が増大したことを認めるにいたった。東京電力はまた、一号機においては最後の砦である圧力容器が破壊され、放射能汚染水が漏出しているのが、この新事実によって裏づけられるようにも思われる、とも述べた。

福島第一原子力発電所の改良版ベントシステムは、もとをたどれば1980年代後半の合州国で、マークI型格納容器システムに基づく沸騰水型原子炉の「安全強化プログラム」の一環として採用されたものだ。このマークI型格納容器システムは、GE社によって1960年代に設計されている。東京電力は、1998年から2001年にかけて、このベントシステムを福島第一原発に導入していた。この原発では、6つの原子炉のうち5つでマークI型が用いられている。

同社は今週になって、このシステムが設置されたことを示す2002年作成の日本の規制関連の資料を再検討したうえで、以上の事実を確認している。

このベントシステムは、それまでのシステムが非常時に原子炉内で高じた圧力に持ちこたえられないのではないか、という懸念に基づいて強化されたものだった。それまでのシステムでは、圧力が温度とともに上昇すると、炉心の燃料棒を覆うジルコニウム被覆管が損傷し、水と化学反応を起こして、ジルコニウム酸化物と水素ガスが生みだされる可能性がある、と考えられたからである。

新たなシステムは、原子炉を収めている格納容器から、フィルターやガス処理システムを介さずに、水蒸気とガスを直接排出するものだ。通常はこのフィルターや処理システムが、ガスの放出を減速させ、ほとんどの放射性物質を除去することになっている。

しかし、この非常用ベントには多くの安全装置が備えつけられており、そのうちのいくつかは作動のための電気を必要とするので、専門家によれば、原子力発電所の全電源が失われたときには役に立たなくなってしまうのである。

これらの安全装置のなかで最も重要なのがバルブであり、このバルブは制御室内にあって、普段はロックと鍵がかけられているスイッチによって操作される。ベントの作動のためには、このバルブを開けなければならない。制御室の鍵穴に鍵を差しこんで回すと、バルブが開き、ガスが原子炉建屋の外へ排出されるようになっている。

東京電力によれば、福島第一原発では電源喪失後、バルブは作動しなかったという。

このことが合州国と日本における同種の原発の操業者たちに示唆するのは、発電所が立地上、津波や河川の氾濫に襲われうる場合、発電機を上層階に移動させれば、原子炉を守ることが可能だということだろう。

しかし、ベントシステムそのものの再設計もまた不可欠だろう。

このシステムの設計は、合州国原子力担当者たちのあいだの、設計思想上の派閥対立の産物だった。アメリカの複数の原発で操業の管理にかかわった、マイケル・フリードランダーはそう証言している。

フリードランダー氏は、原子力規制委員会(NRC)に言及して次のように述べた。「一方で、NRCには格納容器の隔離こそ重要だと主張する連中がいて、彼らはどんな想定可能な事故のシナリオのもとでも、常に格納容器を閉じたままにしておこうとするのです。他方には、原子炉の安全性を重視する連中もいて、彼らは深刻な事故のシナリオのもとでは格納容器をベントする必要があるといいます。このシステムは、激しい議論を呼んでいるものなのです。」

ヒロコ・タブチ(東京)、キース・ブラッドシャー(香港)、マシュー・L・ワルド(ワシントン)


( trad. YS, TT)


参考:Venting Failure in the Nuclear Reactors at Fukushima Daiichi, The New York Times, May 17, 2011
http://www.nytimes.com/interactive/2011/05/17/world/asia/venting-failure-in-the-nuclear-reactors-at-fukushima-daiichi.html?ref=asia
福島第1原発、事故直後の新事実が明らかに―ウォールストリートジャーナルの分析
http://jp.wsj.com/Japan/node_237921
遅すぎたベント、少なすぎた注水 内部資料が語る東電初動ミス
http://hashigozakura.amplify.com/2011/05/04/%E3%80%90%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E7%AC%AC%EF%BC%91%E5%8E%9F%E7%99%BA%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%80%91%E3%80%80%E9%81%85%E3%81%99%E3%81%8E%E3%81%9F%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E3%80%81%E5%B0%91%E3%81%AA%E3%81%99/
東京電力、武藤栄副社長の経歴
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1358918013


6.11 脱原発100万人アクション!(全国各地)6月11日は、福島原発震災から3ヶ月。
今なお放射能の放出は続いています。私たちは、人や自然を傷つける電気はいりません。全国各地域の人々とともに、6月11日に脱原発を求める100万人アクションを呼びかけます。6月11日は、声をあげましょう!今こそ脱原発へ!!  http://nonukes.jp/wordpress/

黙ってられない!声を上げよう!!