原発事故の背景になれあい体質(上)

http://www.nytimes.com/2011/04/27/world/asia/27collusion.html

オオニシ・ノリミツ、ケン・ベルソン

2011年4月26日



【写真】東京電力清水正孝社長と同社役員ら、郡山の避難所で暮らす被災者の前で許しを求めてひざまずいている
(Kyodo/Reuters)


東京 ― 日本の原子力産業がおそろしく閉鎖的であることを考えると、日本の原子力史上最も深刻な隠蔽事件を暴露したのが部外者であったのは、当然かもしれない。その事故は福島第一原子力発電所で起こった。先月[2011年3月]の地震津波の後、日本が必死に事態を収拾しようとしている、あの福島第一である。

ゼネラル・エレクトリック社のもとで福島第一原発の点検をおこなっていた日系アメリカ人スガオカ・ケイ氏【注】は、2000年、日本の原子力行政を所管する主官庁[当時の通商産業省]に、蒸気乾燥機のひび割れが隠蔽されていると告発した。もしこれが明るみに出ていれば、事業者である東電は、電力会社として一番やりたくないこと、つまり、高額な修理作業を行なわざるをえなかったろう。
【注】スガオカ・ケイ氏については、東電のトラブル隠し: http://www.youtube.com/watch?v=fBjiLaVOsI4
および、当サイト3月30日の記事: http://d.hatena.ne.jp/kentao/20110330 を参照】


その後に起こったことは、国内の原子力企業、監督省庁、政界を結ぶ癒着として批判されてきたものの、典型的事例であった。

内部告発者を守る新しい法律[2006年施行の公益通報者保護法]にもかかわらず、監督機関である原子力安全・保安院は、スガオカ氏の身元を東電側に告げ、事実上、彼をこの業界から締め出すことになった。原子力安全・保安院は、自分たちで調査官を福島第一原発に派遣するのでなく、東電が自社内で原子炉を調査するよう指示した。原子力安全・保安院は、東電に対してその後2年間の原子炉操業延長を認めたが、後の調査では、同社幹部たちが、炉心を覆っているシュラウド[隔壁]のひび割れなど、さらに深刻な事故を他にも隠蔽していたことが明らかになった。

チェルノブイリ以来、この種の災害としては最悪のものとなった福島第一原発の事故に対して、こうした安全上の問題や手ぬるい規制がどの程度まで関与していたかを見極めるには、まだ数カ月あるいは数年を要するかもしれない。だが、原発での事故や放射線への恐怖のために国じゅうが引き続き混乱に陥る一方、日本人は次第に疑いはじめている。3月11日に日本を襲った自然災害に対して福島の原発がこれほどまで無防備だったのは、日本に根を下ろしたなれあい体質のためではないか、と。

すでに、日本と欧米の専門家たちの間で強くなっている意見によれば、規制が一貫性を欠いていたり、不在だったり、実行をともなわなかったりしたことが、今回の事故に大きな影響を及ぼした。とりわけ、津波から発電所を守ることのできなかった防潮堤の低さや、原子炉冷却装置の非常用ディーゼル発電機を地上レベルに設置するという決定だ。こうしたことのために、福島原発津波による浸水をことさら受けやすくなったのだ。

福島第一原発で最も古い1号炉の使用を10年間延長したことが意味するのは、是が非でも原子力利用の拡大を目指してきた政治家や役人や企業上層部が、原発の規制システムに手加減を加えることができた、ということである。監督当局は、津波のわずか数週間前【2月7日】、法定上の使用期限40年【注】を越えてこの原子炉の稼働延長を認めた。1号炉の危険性を指摘する声があり、それを受けて東電側が、重要な機器に対する適切な検査を怠っていたと認めたにもかかわらず。

【注】:日本では、原子力発電所の「寿命」を定めた法律はない。原子力発電所の寿命はどれくらいですか?(東京電力
http://www.tepco.co.jp/nu/qa/qa15-j.html
原子炉の寿命は何年ですか。(経済産業省原子力のページ、リンク切れにつき、Internet Archive Wayback Machine より)http://web.archive.org/web/20041024042727/http://www.atom.meti.go.jp/siraberu/qa/00/anzen/10-041.html
現状では、運転開始から30年以降、10年ごとに、原子炉設置者が経年劣化に関する技術的な評価をおこない、長期保守管理方針を策定することが定められている。(「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」第十一条の二)
参考:
東京電力株式会社福島第一原子力発電所1号炉の高経年化技術評価書の審査結果及び長期保守管理方針に係る保安規定の変更認可について(原子力安全・保安院http://www.meti.go.jp/press/20110207001/20110207001.pdf


過去の安全管理上の違反行為はごく軽い罰しか受けなかった。このため、原子力関係者は、安全性向上より自分たちの利害を守ることに関心があるという疑念が強められた。2002年に東電の隠蔽事件がようやく明らかになると、会長と社長が辞任したものの、結局は顧問として東電に残った。降格となった重役たちもいたが、東電の関連企業に移っている。また、隠蔽にかかわったとしてごくわずかな減俸処分となった者もいた。【注】そして、一時的な運転停止と修理の後、東電は福島第一原発の運転を再開したのだった。
【注】東京電力「人事措置について」(2002年9月17日)http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu02_j/images/0917b-j.html

サンフランシスコ・ベイエリアの自宅で電話インタビューに対し、スガオカ氏はこう述べた。「原子力発電は支持しますが、完全な情報公開をおこなうべきです。」


<アマクダリ>原発関連企業と政府関係者をつなぐ癒着の構造を日本では最近「原子力村」と呼んでいる。発電所の下に活断層が見つかったり、津波の想定規模が見直されたり、安全上の問題が繰り返し隠蔽されたりしてきたにもかかわらず、原電を推進しようとする体制側の思惑の根底には、不透明で癒着した利害関係があることを、「村」という表現は暗示している。
ウィキペディア原子力村」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%9D%91

(この「原子力村」では)日本の村ならどこでも見られるように、考えの近い者同士――原子力産業幹部、官僚、政治家、学者――が、原発建設プロジェクト、高給ポスト、政治上・財政上・規制上の支援などを互いに与えあうことで利益を得てきた。原子力発電の安全性をあからさまに疑う人間は村八分となり、昇進や支援を得られなくなるのだ。

与党民主党の中で以前から原子力産業を批判してきた数少ない代議士の一人、大島九州男(くすお)氏によれば、安全より利潤に目を向ける原発業界の改革を議論するだけでも、ごく最近までは政治的自殺行為に等しかったという。

「タブーだと思って、誰も触れようとはしなかったんです」と大島氏は述べる。その上で、自分は原子力関連団体でなく、仏教系の新宗教団体として最大のものの一つ、立正佼成会の支持を受けているのだ、と付け加えた。

「結局、お金の問題です」と彼は言い足した。

批判者たちによれば、福島第一でも他の場所でも、安全上の問題は共通の原因、つまり、監視役[原子力安全・保安院]が「原子力村」の住人にすぎないという点に由来している。

原子力安全・保安院は、原発の安全規制を任務としているにもかかわらず、原子力利用の推進を担当する経済産業省の一機関である。職員たちは、長いキャリアの間に、原子力の規制部門と推進部門の間を行ったり来たりする。かくして、原発産業の牽引役と監督役を隔てる境界はかき消されることになる。

影響力のある役人たちが原子力産業(とその発展)に肩入れするのは、日本語で「空から降りてくること」を意味する<アマクダリ>のためだ。アマクダリは、日本の主幹産業では広く見られる慣習で、やや年配、おおよそ50歳代の官僚たちが、かつて自分たちの監督した企業で気楽な職にありつくことを可能にする。

原子力産業を厳しく批判する団体の一つ、日本共産党がまとめた資料によれば、1960年代に日本で最初の原発が計画されたころから、原発推進官庁[旧・通商産業省/現・経済産業省]の幹部たちは何代にもわたって国内10社の電力企業で役員のポストについてきた。日本の省庁と電力会社の明瞭なヒエラルキーを反映する形で、省トップクラスの幹部らは東京電力天下りし、ランクが下がるにつれてより規模の小さい電力会社に再就職している。【注】
【注】「東電副社長はエネ庁幹部の指定席」(しんぶん赤旗 2011年4月10日付)http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-04-10/2011041001_02_1.html

東電の場合、1959年【上記の記事によれば、1962年】から2010年までの間、省トップクラスの役人4人が同社副社長をつとめている。一人が退職すると、省内の後輩が、同省の「指定席」と呼ばれる東電副社長のポストを引き継ぐのだ。

一番最近のケースでは、経済産業省の外局である資源エネルギー庁の石田徹長官が、昨年[8月]退職した後、今年初頭[1月1日]に東電の顧問のポストについている。菅直人首相の政府は当初この人事を擁護したが、共産党が1960年代以降の天下り人事の規模を公表すると、態度を翻した。以前なら、石田氏は今年の後半ごろ副社長になっていたかもしれないが、先週になって辞職を余儀なくされた。

東電の広報担当者長谷川和弘氏は、この人事が天下りではないとし、同社は最良の人材を選任しているだけだと付け加えた。同社と官僚・政治家とのつながりについて幹部のインタビューを申し入れると、東電は拒否した。

より低いランクの役人も、電力会社がもつ無数の関連企業や、経済産業省や電力会社に近い諮問機関で、報酬は減るにせよ同様の職についている。

「こういう馴れ合いのために、原子力安全・保安院は結局のところ、原子力発電の利権にむらがる集団の一員になっているのです」と、長年にわたり原子力業界を監視してきた原子力の専門家でもある共産党の代議士、吉井英勝氏は述べる。

なれあいの関係は[省庁から企業へという天下りとは]逆の向きにも結ばれている。あまり知られていないが、アマアガリ、つまり、「空へ昇っていくこと」という意味の慣習もある。原子力安全・保安院をサポートする監督を任務とする委員会は、常勤の専門技術者を欠いているため、こうした委員会では原子力産業関連企業の退職者や現役社員に大きく依存しているのだ。こうした人々が、もともとの雇い主である電力会社を批判するとは考えにくい。


(trad. SS)

(この項続く)


6.11 脱原発100万人アクション! 全国各地!福島原発震災から3ヶ月。
今なお放射能の放出は続いています。全国各地域の人々とともに、6月11日に脱原発を求める100万人アクションを呼びかけます。
今こそ脱原発へ!!  http://nonukes.jp/wordpress/