日本、安全性への懸念にもかかわらず原子炉の稼働期間を延長


The New York Times March 21, 2011
ニューヨークタイムズ 2011年3月21日

http://www.nytimes.com/2011/03/22/world/asia/22nuclear.html?pagewanted=1&_r=2&hp

ヒロコ・タブチ、ノリミツ・オオニシ、ケン・ベルソン

東京発―福島第一原発を機能不全に陥らせ、日本の原子力危機を引き起こした大地震津波のちょうど一か月前、規制にあたる日本政府の担当者らは、この発電所の6機の原子炉のうちもっとも古いもの(第1号炉)について、向こう十年間の稼働期間延長を許可していた。安全性に関する懸念があったにもかかわらず、である。

経済産業省原子力安全委員会のウェブサイト上に発表された各審議の議事録によれば、延長を決めた調査委員会は、福島第一原発1号機にあるディーゼルエンジンの予備発電機にいくつものひび割れがあることを指摘していた。このひび割れのために、発電機のエンジンは、海水や雨水による腐蝕を受けやすい状態になっていたのだ。これらの発電機は津波の打撃を受けて、原子炉の維持に欠かせない冷却装置が機能しなくなってしまったと見られている。
http://www.meti.go.jp/press/20110207001/20110207001.html

福島第一原発を運営している東京電力株式会社は、この間、原子炉と核燃料プールが過剰に熱を持ったり、放射性物質を放出したりしないように懸命な努力を続けている。

今回の大地震の直前、原子力安全委員会のウェブサイト上で公表された調査結果によれば、東京電力は操業延長の許可がおりた数週間後、冷却装置にかかわる設備のうち、原子炉6機の注水ポンプや予備発電機を含む33ヶ所の部位について、安全点検を怠っていたことを認めた。

原子力安全委員らによると、「メンテナンスの作業が不適切」であり、「安全点検の質も不十分」だったという。

それから二週間も経たないうちに、地震津波福島第一原発の危機を引き起こすことになったのだ。

原子炉の稼働期間延長の決定と、原子炉6機すべてにおける不十分な安全点検という事実は、原子力発電所の操業者たちとその規制者たる政府の安全委員たちの間に、原発の批判者たちが「不健全な癒着」と呼ぶものが存在することを浮き彫りにしている。今回稼働期間延長を推奨したような専門家からなる諮問機関は、ほとんどが官僚の意思決定を補強するために大学や研究機関から選ばれてきた者たちからなっており、彼らが自分たちを雇っている関連機関に対して異議を申し立てることはめったにない。

原子力に対する公衆の反発により、原子力発電所を新たに建設することは困難となっている。そのため、原発の操業者たちは、規定の40年の年限を越えて原子炉の稼働期間を延長しようと画策しているのである。原子力エネルギーの利用を拡大し、輸入化石燃料への依存から脱却することを望んでいる日本政府も、(この稼働期間延長に対しては)きわめて好意的な対応を示してきた。こうして稼働期間延長の動向は、老朽化した原発の延命を認めてきた世界的な動向の一環でもある。

今後10年間を通して日本では、さらに13機の原子炉――そのうちには福島第一原発の残りの5機の原子炉が含まれる――が稼働開始後40年を迎えることになっており、その原子炉の入れ替えには途方もないコストがかかる見通しである。原発の批判者たちによれば、老朽化した原発の点検を担当している原子力安全・保安院が、みずから行った調査結果を軽視してきた背景には、このコストの問題が一因となっているという。

二月初旬に稼働期間延長を認可するにあたって、原子力安全委員会委員らは、東京電力に対し、燃料棒を格納する原子炉の圧縮容器への放射能による損傷がどれほどありうるのか、圧力抑制室に注水するために使われる噴霧ヘッドの腐蝕状態はどうか、原子炉の主要なボルトの腐蝕状態はどうか、原子炉内への注水の流量を測定するメーターに問題がないかどうかについて監視するよう命じた。以上は二月初旬に公表された報告書に記載されている。

原子力安全委員会は、六回にわたって会合を持ち、福島第一原発の第1号機の安全点検の調査結果を検討したうえで、東京電力は必要なあらゆる耐震策を講じているとした。ところが調査担当者たちは、1号炉の検査に3日を費やしたにすぎない。専門家によれば、原子力発電所への地震のリスクを見きわめるのが、世界でももっとも煩瑣な技術的問題のひとつである以上、この3日という期間はどう見ても短すぎるという。

これらの疑いがあったにもかかわらず、安全委員会は、東京電力が1号炉(ジェネラル・エレクトリック社製1971年に稼働開始)をさらに10年間にわたって稼働する許可を与えたのである。この審査の過程で、東京電力側は、原子炉は60年間稼働可能であると主張していた。

福島第一原発の原子炉複数の設計に携わった技術者である田中光彦は、福島原発の原子炉のいくつもがもはや年代物となっており、とりわけ小さな圧力抑制室については、原子炉の中で圧力が上がるリスクを増大させていた、と言っている。そのリスクは新しい原子炉であれば回避できるものだったという。津波のあと、福島第一原発の現場担当者たちは、この原子炉内部の圧力上昇を回避するために、幾度も大気中に放射性物質を含む水蒸気を放出しており、この結果、周辺地域の食糧と水の汚染を招いている。


「そろそろ原子炉を入れ替えるべき時期に来ていました」と田中氏は言う。「いずれにしろ津波は甚大な損傷をもたらしていたでしょうが、配管、機械類、コンピューター、原子炉全体など、すべてがもう古くなっていたために、事態は悪化したのです」。実際、まだ比較的老朽化の少ない2、3、4号機の原子炉も大きな損傷をこうむった。

原子力安全委員は向こう10年間の稼働期間延長を認可した。しかし、東京電力の老朽化した原子炉をはじめ、他の電力会社の原子炉も、既に過去10年間さまざまな問題を起こしていたのだ。とりわけ日本最大の電力会社である東京電力が企てた問題の隠蔽やデータの改竄は、原子力産業そのもののさまざまな問題点ばかりでなく、日本における原子力産業の管理体制の脆さまで浮き彫りにしてきた。同社はこれまでの行ないがあやまっていたことを認めている。

東京電力の広報担当、角田直紀氏は言う。「私たちは将来、適切な安全点検を実施することを約束します。なぜ今回の事態が起きたのかを検証し、全力を尽くして情報公開をいたします。」

2000年、原子炉の安全点検の契約をしたある会社の内部告発者は、福島第一原発の原子炉の炉心を覆うステンレススチールの側板にいくつものひび割れがあることを、原子力安全委員らに明かしていた。しかし同委員らはこの案件を調査するよう指示しただけで、原子炉の稼働は続行させたのである。

原子力安全委員たちは実のところ、側板のひび割れに関する情報を握りつぶしたのだ。そう語るのは、当時の福島県知事であり、反原発論者でもある佐藤栄佐久氏である。佐藤氏によると、内部告発者の報告があってから2年以上も経った2002年に安全委員たちが情報を公表するまで、県自体も、原発を受け入れている地域社会も、このひび割れについて知らされることはなかったという。

2003年、別の内部告発者たちが福島県に情報提供し、東京電力が修理費を浮かせるために16年以上にもわたって安全点検の調査記録を改竄し、欠陥を隠し続けてきたことを明かすと、原子力安全委員らは同社に対し、福島第一原発・第二原発の10機の原子炉と、新潟県の7機の原子炉について、稼働を一時停止させた。このきわめて深刻な事件の渦中にありながら、東京電力は(原子炉の)側板の大きなひび割れを隠し続けたのだ。

「体質的に信頼に値しない一組織が、日本の原発の安全性の保証について責任を負っているわけです」。1988年から2006年まで県知事を務めた佐藤氏は言う。「だから問題は、長きにわたって情報隠蔽してきた東京電力に限られるわけではありません。むしろ、システム全体が腐り果てているのです。恐るべきことです。」

日本の原子力産業に対する多くの批判者たちと同様、佐藤氏は、管理体制が甘いのは利害関係がからんでいるせいだと指摘する。この利害関係こそが、原子力安全・保安院の実効性を完全に骨抜きにしてしまうと言う。監視役であるはずの同委員会は経済産業省の管轄下に置かれているが、同省の基本方針は、日本の原子力産業の発展を奨励することにあるからだ。

経済産業省原子力安全・保安院は、東京電力や他の事業者たちと馴れ合いの関係にある。これらの事業者のうちには、「天下り」と呼ばれる慣習によって、同省の元官僚たちに割りの良い仕事を提供しているものもある。

「彼らはみな、同じ穴の狢です。」今年71歳になる佐藤氏は、福島県郡山市の自宅におけるインタビューでそう述べた。

原子力安全基盤機構は、第二の監視役とされているものの、人手不足に悩み、主に諮問機関の役割を担っているにすぎない。東京電力で要職を歴任し、原子力安全対策部門の責任者でもあった同社の元副社長、豊田正敏氏は、この原子力安全基盤機構が強化されるべきだとしている。かつてアメリカ合州国にも似たような組織が存在したが、1970年代に議会は旧原子力委員会(AEC)を解体して、エネルギー省(DOE)と原子力規制委員会(NRC)に改組した。

アメリカ合州国原子力規制委員会と同様、原子力安全基盤機構が、原発の安全性のチェックを担う専従の技術者を雇うべきです」と豊田氏は言う。「私は何度も、システムそのものを変えるべきだと政府に進言してきました。しかし、どれほど些細なことでも、日本の原子力関連の方針を変えるには長大な時間がかかるのです。」

原子力安全・保安院の審議官、西山英彦氏は「現行の安全体制にはなんら問題はない」と言う。原子炉の第一号機の稼働延長は、「指摘された問題が東京電力によって解決されるという了解のもとで、認可された」と氏は補足する。

しかし、原発の批判者たちによれば、原子炉の稼働期間の延長のための認可のプロセスは、さまざまな問題をはらんでいる。認可が下りる前に開示されるのは限られた量の情報だけだからだ。日本でもっとも強硬な原子力監視団体である原子力資料情報室(CNIC)の原子力安全性研究者、上澤千尋氏によれば、日本政府は諸々の電力会社が提出する報告を検討するだけで、それらの報告が事実かどうかを判断するためにみずから検証を行なうこともないという。

上澤氏の言を借りれば、「彼らは原子炉の年限を延ばしてばかりいる」のだ。


(trad. TT)


参考1:「福島原発は欠陥工事だらけ」担当施工管理者が仰天告白http://www.wa-dan.com/article/2011/03/post-84.php

参考2:佐藤栄佐久・前福島県知事が告発 「国民を欺いた国の責任をただせ」週刊朝日 3月30日(水)17時56分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110330-00000301-sasahi-pol

参考3:原発元設計者が米メディアで告白 「原子炉構造に欠陥あり」週刊朝日 3月28日(月)17時27分配信
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110328-00000302-sasahi-soci

参考4:原子力安全・保安院審議官・西山英彦http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E5%B1%B1%E8%8B%B1%E5%BD%A6

参考5:原子力安全基盤機構http://www.jnes.go.jp/


(trad. TT)