暗い歴史も怖かった

어두운 歷史도 두려웠다.
http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2011/03/22/2011032202636.html

朝鮮日報(韓国) 2011年3月22日
鮮于正(ソヌ ジョン)


 東日本大地震でもっとも大きな被災地である仙台から出発して、原子力発電所の事故が起きた福島へ向かう途中、私は説明のできない不思議な気分になった。その気分は、放射能に対して感じる恐怖感とは別の陰鬱なものだった。


 それはある知人との電話が原因だったと思う。彼から「正力」という人物を知っているかと尋ねられた。正力松太郎は1923年の関東大震災当時、警察幹部だったという[注]。彼が「朝鮮人が暴動を起こす」という噂を流して、日本人は鬱積していた苦痛を「虐殺」というかたちで噴出させたのである。私が「また昔の話か」と文句を言うと、知人は「今度の大地震で爆発した原発も正力の遺産なんだ」と言った。私はその話を聞いて、陰鬱な気分になったのだろう。
[注:正力松太郎関東大震災当時、警視庁官房主事。]


 東日本大地震を取材するため日本に来る際、「先入観は持つべきじゃない」と思った。「過去を暴いて他人の苦しみを嘲笑う、醜い人間になっては絶対いけない」と思った。しかし、苦しみを宿命として受けとる日本の国民、そしてその国民の苦しみを着実に蓄積させている日本の政府に出食わしたとたん、私はうろたえざるを得なかった。関東大震災の時と何が違うのか?


 関東大震災の時、日本の政府は国民を助けることができなかった。それでも日本の国民は最後まで耐え忍んだ。当時の状況は、NHKの有名なドラマ「おしん」でうまく描かれている。「辛抱しなきゃ、頑張ろう」と言いながら、息子と一緒に三千里を避難していくおしんの苦難を見て、日本列島は涙を流した。西洋のメディアが関東大地震後の数日間を目撃することができたなら、現在と同じように「人類精神の進歩」だと報道したかもしれない。


 しかし、正力は「耐え忍ぶ美学」を信じてはいなかったのだろう。彼は、苦しみの積み重ねがどれほど過激な結果を生み出すか、人間がその苦痛の重さにたえかねて、それをどのように他人に転嫁できるのかをよく知っていたのだろう。日本の教科書はその時虐殺された朝鮮人の人数が6000人から7000人に及ぶと記述している。それは1995年の阪神大震災の死者総数に匹敵する人数である。


 私は現在の日本に正力のような人がいるとは思っていない。また日本の国民があやまちを繰り返すとも思っていない。現地で見た被災人ひとりひとりの行動はすばらしいものだった。だが、ただ耐え忍ぶのが最善ではないことは歴史が証明している。現在の日本は歴史を忘れつつある。韓国が[悲惨な]過去を忘れてもかまわないとしても、日本はそうではない。その暗い歴史を日本は忘れてはならない。


 正力は一生栄華を享受したとも言える。マスメディアを一手に引き受け 、プロ野球の礎を築いた。自分のあやまちを謝罪したことはない。彼が信念を持って日本に残した最後の業績は原子力発電所だった。原子力委員会の初代委員長、科学技術庁の初代長官として彼が築いた土台の上に今の原発が立っている。彼は日本で「原発の父」と呼ばれている。


 私は放射能も歴史も恐ろしく感じながら、福島を出た。悲劇的な偶然をとらえて因果関係を云々するつもりはまったくない。しかし、過去のあやまちを繰り返さないことができるのであれば、歴史の流れをもっと明るい方向に向けることができると思う。[…]


(trad. HY)



参考:

正力松太郎
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E5%8A%9B%E6%9D%BE%E5%A4%AA%E9%83%8E

有馬哲夫『原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史―』(新潮社)
「一九五四年の第五福竜丸事件以降、日本では「反米」「反原子力」気運が高まっていく。そんな中、衆院議員に当選した正力松太郎讀賣新聞社主とCIAは、原子力に好意的な親米世論を形成するための「工作」を開始する。原潜、讀賣新聞日本テレビ、保守大合同、そしてディズニー。正力とCIAの協力関係から始まった、巨大メディア、政界、産業界を巡る連鎖とは――。」
http://www.shinchosha.co.jp/book/610249/

原発導入のシナリオ 〜冷戦下の対日原子力戦略〜http://video.google.com/videoplay?docid=-584388328765617134&hl=ja#

原子力発電を推進した元凶としての中曽根康弘正力松太郎 http://www.asyura2.com/11/genpatu8/msg/148.html

原子力委員会http://www.aec.go.jp/

科学技術庁Wikipediahttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%91%E5%AD%A6%E6%8A%80%E8%A1%93%E5%BA%81