原子炉の派遣労働者たち

Die Tageszeitung junge Welt 26.03.2011日刊紙 ユンゲ・ヴェルト 2011年3月26日http://www.jungewelt.de/2011/03-26/033.php


福島原発を操業する東電は、原発事故の処理のために「現代のサムライ」を雇っている。状況は制御不能。さらに高まる放射能
(記事: ヨーゼフ・オーバーレンダー Josef Oberlaender)


写真(AP提供): 不気味な光景。金曜日[3月25日]、被曝した作業員たちが、ビニールシートで隠すように病院に連れていかれる。


東京周辺で木曜日[3月24日]に黄色い雨が降ると、首都圏に住む人々から数百件の不安げな問い合わせが気象庁に寄せられた。福島の原発事故のせいで放射能を含む死の灰が降ってきているのだろうか? 気象庁によれば、花粉が雨に混じって降っているだけだという。だが、公式発表なるものへの信頼が薄れているため、人々の不安は募るばかりだ。


この二週間、東京電力は、震災とその後の津波で損壊した福島第一原子力発電所の事態を収拾しようとしてきた。毎日、新たに放射能の値と原子炉の温度が報じられる。上がったり下がったりする数値を知らせることで、状況が掌握されているかのように見せようとしているのだ。しかし、現場で作業するたくさんの専門家にとって、緊迫する事態がますますコントロールできなくなりつつあることが、徐々にはっきりしてきた。日本の原子力施設監督機関である原子力安全・保安院の西山英彦氏は、3号機の圧力容器に亀裂が生じ、そこから放射性物質が漏れているかもしれないことを認めた。


目下、700名以上の作業員が必死になって、放射能を出す廃墟となった原子炉の冷却装置を動かそうと努力している。50人ずつのグループで作業にあたり[ママ]、「フクシマ50」の名で知られる作業員たちは、国内で称賛の的となっている。この人々が「現代のサムライ」ばかりでないということ、一部は、同程度の収入がほかでは見込めない、素人同然の派遣労働者であるということ、こうしたことは、彼らを称賛する人々にほとんど知られることがない。


3号機のタービン建屋で被曝した3名の作業員たちは、放射能基準値の1000倍を越えた15センチほどの水に足を踏み入れた。そのうち2名は、適切な長靴を履いていなかったと見られ、靴に水が入ってしまった。重度のベータ線熱傷のおそれがあったため、2人は千葉にある放射線医学総合研究所に転院し、専門的な治療を受ける。


東京電力は、これまでにもたびたび従業員の安全管理を怠っていると非難されてきた。[被曝した]3名は線量計の数値を無視して多量の放射線を浴びながら作業を続けていたとして、東電は弁解している。東電側によると、水のなかには、コバルト60とモリブデン99を含む、8種の[放射性]同位体が確認されたという。これらの放射性物質が破損した原子炉の中心部から出たものか、それとも、使用済み燃料棒が貯蔵されている冷却プールが過熱して出たものかは、水の出所と同様、わかっていない。


現在、作業員たちは3号機に集中している。結局のところ、東電本社では、福島第一原子力発電所の破損した原子炉をいつの日か再稼働することを夢見ているのだ。それに対して、圧力容器に近い冷却用プール内でくすぶり続けている放射性廃棄物は、東電にとってさしあたり何の価値もない。だから、こちらのほうはろくに作業が進んでいない。もしここで爆発が起これば、ロシアの[核施設]マヤークと同じような惨事になる可能性がある。そこでは、1957年に液体核廃棄物の貯蔵庫が爆発した。チェルノブイリの事故とは異なり、そのときに放出された放射性物質は主として近隣の地域のみに広がった。信頼に足る犠牲者の数は存在しない。


日本政府は、この間、原子力発電所の周囲30kmの住民に避難要請を出している。運送業者が放射能汚染を警戒し、ひと気のなくなった地域への生活物資の輸送を拒んでいるため、物資の供給がむずかしくなったというのが、政府の言い訳だ。


東京でも、放射能の上昇が不安をあおっている。都では、乳児のいる家庭に水のペットボトルの配布を始めた。飲料水中に放射性ヨウ素が見つかったためである。東京に隣接する千葉、茨城、埼玉の各県でも、水道水を乳児に与えないように呼びかけている。スーパーではミネラルウォーターも売り切れ。東京近郊の野菜からも、放射性セシウムが検出されている。



(trad. SS)


参考1: 「Fukushima 50」http://ja.wikipedia.org/wiki/Fukushima_50
参考2:「原発がどんなものか知って欲しい」(平井憲夫)http://www.iam-t.jp/HIRAI/pageall.html
参考3:「福島第一原子力発電所1〜4号機の廃炉を明言 東電会長」(3月31日)http://www.cnn.co.jp/world/30002308.html
参考4:「原発増設白紙化、首相が検討表明 福島第1の全廃炉も」(4月1日)http://www.sankeibiz.jp/business/news/110401/bsc1104010503005-n1.htm
参考5:「福島第一原発廃炉は数十年がかり」(3月31日)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110331-OYT1T00177.htm