日本の原発はリスクへの備えがおろそかだった

The Wall Street Journal March 31, 2011ウォールストリート・ジャーナル 2011年3月31日 


http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703712504576232961004646464.html?mod=WSJEurope_hpp_LEFTTopStories


Phred Dvorak and Peter Landersフレッド・ドヴォラックとピーター・ランダース


[東京] 東京電力の災害対策に関する文書は、福島第一原子力発電所について、起こりうる事故の規模をひどく過小評価していた。非常用に、担架が1台、衛星電話が1台、放射能防護服が50着しか用意されていなかったのだ。


ウォールストリート・ジャーナル紙は、福島第一原発の「原子力事業者防災業務計画」を検証した。そこには、非常の際の外部からの救援についてのガイドラインはほとんど含まれていない。この業務計画は、地震津波原子力施設を破壊した後に生じた放射能危機の対処に際して、日本がどうして苦闘を強いられ続けているか、その原因を示唆するものだ。


この防災業務計画は、日本の原子力監視機関である原子力安全・保安院によって承認された比較的小規模な緊急事態に対応するガイドラインで、事故が生じた場合にどのように主要システムのバックアップを確保するかを細部にわたって記述している。ところが、この計画では、原発だけでは対処できず、近隣の原発からの支援が必要となるような最悪の事態のシナリオを想定してはいないのだ。ここには、現在も加熱を続けている原子炉との戦いに際して、原発事業者が結果的に頼ることになった、東京消防庁自衛隊・米軍への言及はないのである。


水曜日(3月30日)、原発事業者である東京電力社長が高血圧のために入院した。リーダーシップに問題があることを明らかにする、新たな兆候である。とはいえ、事故の初期段階では東京電力の対応の遅れが非難されたが、いまや、東京電力の防災業務計画そのものが不適切だったことがあきらかになったようだ。


「防災業務計画は機能しませんでした」と、東京電力の元幹部は語る。「こんな大災害は想定外だったのです」。


本紙が検討した、福島第一原発の災害対策に関する主要な二つの文書は、一般的な備えと連絡系統が論じられている「防災業務計画」と、事故の際の技術的対策を中心に論じている「原発事故管理プロトコル」である。


毎年更新されている「防災業務計画」では、外部の世界との主要な通信手段としてファックスが想定されており、政府担当者とファックス通信をする際に東電担当者が拠るべき細かな書式が記されている。書式のひとつには「AC電力の喪失」「制御室の利用不能」「炉心外における臨界核反応の可能性」など、一連の選択肢が記されている。


東京電力広報の長谷川和弘は「(災害対策の)計画は法律に従うとともに、部分的には法律が求める以上の想定をしており、危機において役立った」と語る。たとえば、原子炉を冷却するための緊急注水は「事故管理プロトコル」にしたがったものだという。


しかし原子力発電の専門家たちは、福島第一原発で発生したのと同様の惨事に対処する用意のあった原発事業者などまずないと言ってよい、という。3月31日、原発マグニチュード9.0の地震に見舞われ、ついで45フィート(14メートル)の津波に襲われた。二度にわたる天災のために、6基の原子炉のほとんどすべてで、通常の電源および近くに設置された非常用発電機が流し去られ、外部に救援を求めるための道路と通信網もまた損傷を受けたのである。


これまでの原発事故、たとえばアメリカ合衆国スリーマイル島旧ソ連チェルノブイリは、貧弱な安全基準と悪しき管理の結果だった――1990年代後半に原子力安全委員会委員長を務め、現在は原子力安全研究委員会顧問の佐藤一男はそう主張する。「今回の事故は天災で、それらの事故とは質的に異なるものです」。


国連機関のひとつである国際原子力機関IAEA)は、原子力施設の事業者のために何百ページもの安全勧告を出しているが、この勧告は個々の国に対して拘束力をもたない。 IAEAのスポークスマンは、日本の防災業務計画がIAEAガイドラインを満たしているかどうかについてのコメントを差し控えた。


本紙は、IAEAの一般的な原則と福島第一原発原発事故管理プロトコルを比較検討してみた。一見したところ、大局においては、福島原発の防災業務計画はIAEAの原則を守っているように見える。ただし、IAEA原発事業者が「原発のかなりの部分を損傷するような、火災、洪水、地震、極度な悪天候など、外部に由来する事象のうち、該当するもの」に対応するように求めている。ところが福島原発第一の原発事故管理プロトコルは、それらの災害がいかに原発を損傷するかについて、特に項目を挙げて論じてはいないのである。


アメリカ合衆国では、事業者は防災業務計画を継続的に更新し、少なくとも2年おきに、8時間から2日ほどかかる大規模な訓練を行なうことが求められている。その訓練は、アメリカ合衆国原子力規制委員会(NRC)によって評価され、問題点がある場合は、その解決が求められる。NRCはどのような能力が原発に必要とされるかを規定しているが、ただし、それが具体的にどのような設備にあたるかを特定しているわけではない。


批判的な論者たちによれば、日本の原子力規制当局と原発事業者は、一般大衆に恐怖を与えることを避けるためもあって、いっそう包括的な災害のシナリオを論じたり、準備したりすることを避けているのだ。実際、福島第一原発は当の原発の事故管理プロトコルについて、ある報告書の中でこう言っている。「技術的観点から言って、深刻な事故が発生する可能性は小さく、事実上考えられない」。


経産相海江田万里は、水曜日(3月30日)、原子力安全・保安院が、福島第一原発の現状に照らして、安全対策を厳格化する予定であると語った。その安全対策が不十分なものであったことについて、「私たちは痛切な認識を持っています」と、保安院のスポークスマンは語った。


スリーマイル島チェルノブイリ原発事故後の1992年、日本の通産大臣は、原発事業者たちに、それぞれの安全基準を超えるような事故を想定して、個々の原発施設について事故管理プロトコルを自主的に作成するように求めた。この事故対策は、定期的に更新することを求められてはいなかった。東京電力福島第一原発について、現在の事故対策計画を作成したのは、2002年のことだ。


JCOウラン加工工場(茨城県東海村)で、1999年に発生した深刻な事故を受けて、日本の国会は原子力の非常事態に関して、原子力災害対策特別措置法を制定した。この法律によれば、原子力事業者は原子力防災業務計画を作成し、毎年更新しなければならないとされている。また同法は、防毒マスクの数の下限など、事業者が守らなければならない基準をさだめている。


いくつかの点においては、福島第一原発の防災管理者は最低基準以上の備えをかためていた。防災業務計画では、放射線量計は法律では6台だが、福島第一には49台ある。また、法律では携帯電話は7台だが、ふたつのシステムに100台が用意されている。


とはいえ、これら装置の数量の多くからは、6基の原発が少なくとも小規模な非常事態しか想定していなかったことがわかる。放射線などにさらされた被害者のために待機している医療チームは4名。酸素ボンベ付きの防護服は4着用意されているにすぎず、救急車および放射線測定装置はいずれも1台しかなかった。


多くがファックスに依存していた。ある部門では、管理者が経産大臣、福島県知事、近隣市町村の首長に「15分以内に、ファックスによって同時に」直通で知らせるようになっている。特別なケースでは、管理者はファックスが到達したことを確認するために事後的に電話を入れるよう勧告されている。


日本の他の原発事業者の防災業務計画も、なかにはより包括的なものもあるとはいえ、いずれも福島第一と似たり寄ったりなのである。


原発の事故対策計画は、一般に原発内部の故障についてのもので、地震やテロリストの攻撃など外部からの衝撃を計算に入れていない」と、北海道大学の杉山憲一郎教授は語る。彼は政府の原子力事故対策委員会に参加していた。


東京電力の長谷川氏は、同社が「防災のための行動計画に基づいて緊急対策」を実行するのに最大限努力しているという。彼は、地震発生直後に緊急対策本部を設置するなど、計画は成功裏に実行されたと強調する。


現在の危機が解決された後、日本はすべてについて再考する必要があるだろう、と東京電力の元社員は語っている。「今回の大惨事からは」、防災上の計画において「用心しすぎるということはないことがわかります」と、1997年から2000年まで福島第一原子力発電所長を務めた二見常夫は語る。「明日は何が起こるかわからない」という態度をとるべきなのです、と。


取材協力:レベッカ・スミス、デヴィッド・クロフォード

(trad. AM)



参考1)地球科学者 石橋克彦 私の考えhttp://historical.seismology.jp/ishibashi/opinion/2011touhoku.html


参考2)石橋克彦「原発震災ー破滅を避けるために」(岩波書店『科学』1997年10月号掲載)http://www.iwanami.co.jp/kagaku/K_Ishibashi_Kagaku199710.pdf


参考3)石橋克彦「迫り来る大地震活動期は未曾有の国難−技術的防災から国土政策・社会経済システムの根本的変革へ−」(2005年衆議院予算委員会公聴会での発言内容)http://www.stop-hamaoka.com/koe/ishibashi050223.html



告知1:浜岡原発すぐ止めて! 4・10東京―市民集会&デモ 2011年4月10日(日)
集会開始 13 :00〜 芝公園 23号地
デモ出発 14 :00〜
デモコース/経済産業省別館前・中部電力東京支社前・東電本社前・銀座数寄屋橋交差点(ソニービル前)を通り、常磐橋公園で流れ解散(東京駅の先)
主催 浜岡原発すぐ止めて!実行委員会問い合わせ先 TEL 03-5225-7213 FAX 03-5225-7214 共同事務所AIR呼びかけ/浜岡原発を考える静岡ネットワーク/ふぇみん婦人民主クラブ/日本消費者連盟/チェルノブイリ子ども基金/原子力資料情報室/プルトニウムなんていらないよ!東京/福島老朽原発を考える会/チェルノブイリと日本の未来を考える会/たんぽぽ舍/大地を守る会/日本山妙法寺/原子力行政を問い直す宗教者の会/東京電力と共に脱原発をめざす会(4/2現在)


告知2: 原発いらん! 関西行動 2011/4/16(土)
15:30〜 大阪・中之島公園 集会
16:10〜17:30 御堂筋デモ

www.jca.apc.org/mihama/annai/demo110416.pdf

呼びかけ:ストップ・ザ・もんじゅ、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン、美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会、グリーン・アクション、若狭連帯行動ネットワーク、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西、原発を知る滋賀連絡会、奈良脱原発ネットワーク