チェルノブイリの教訓は生かされなかった

http://abonnes.lemonde.fr/idees/article/2011/04/25/les-lecons-de-tchernobyl-n-ont-pas-ete-tirees_1512523_3232.html


LEMONDE | 25.04.11 | 13h50 • Mis à jour le 26.04.11 | 09h32ル・モンド 2011年4月25日(26日9時32分更新)


1986年4月26日、チェルノブイリ原子力発電所の第4号炉が爆発した。科学者の間で、この原子力事故と、放射線に直接曝された地域での出生率減少との間に関係があることを疑う者はいない。とりわけベラルーシでは、出生率が5.9%も落ち込む「大量死」の様相を見せている。

出生率が暴落する一方、死亡率についてのデータは十分憂慮に値する値を示している。とりわけ、心臓・循環器系疾患とガンの数値が年々上昇しているのだ。出生率の減少は、男女両性の生殖器系の機能障碍と、胚や胎児の成長に影響を及ぼす重大な疾患に結びついている。またチェルノブイリは、25年間にわたって、セシウム137をはじめとする放射性物質に曝されてきたため、代謝機能の失調と遺伝子の衰弱を起こした多くの人の健康を害している。

ベラルーシウクライナとロシアの旧ソ連邦諸政府は、チェルノブイリの事故によって引き起こされた問題を処理する能力をまったく持たなかった。この失敗の最大の原因の一つは、放射能が人の健康に及ぼす影響について、客観的な情報が欠けていたことにある。この情報統制はおおむね、原子力関連の圧力団体と、ベラルーシの独裁体制の癒着によっておこったものだ。

フクシマで原子力発電所から放射性物質が生態系に放出され続けており―この放出はまだ当分続くことになる―、チェルノブイリの爆発によって起こされた放射能汚染の記憶を呼び起こしつつある現在、これらの地域での放射能被曝への予防措置の適用は緊急を要している。何年にもわたって、ヨーロッパからの援助はチェルノブイリ原子力発電所そのものの保安と石棺化に集中してきた。4月19日、ヨーロッパ共同体執行委員会はさらに1億1千万ユーロの支援を決めた。とはいえ、こうした支援金の一部を医療プロジェクトに用いることがぜひとも必要なのだ。

いうまでもなく、放射能被曝に対する予防措置が、人体にとって有害で・致死的でもある疾病の対策として有効なものとなるには、具体的な政治的アクションと正確な情報の流通が不可欠である。

この点はきわめて重要だ。なるほど、チェルノブイリの災厄をめぐる数々の「異常」が、民主主義国でありうる状況とはどれほど異なったものであったとしても、公正な情報へのアクセスは決して自明のものではないからである。

そのことを我々はふたたび、フクシマの原発事故に際して確認することになった。だが原子力災害において、この[公正な情報へのアクセス]という原則には、文字通り命がかかっているのだ!


オルタナティヴは存在するだとすると、キエフの「エコロジーと健康」連絡・分析センター[注]の重要性が理解できるだろう。このセンターの任務のうちには、放射能汚染された地域の状況の客観的な評価と、不幸にして原子力災害になった際の住民と救援隊員の保護のために必要な措置がある。ヨーロッパをさらなる放射能汚染から守るため自己を犠牲にした数十万の「墓堀人」を含め、チェルノブイリの事故で被害を受けた人々のリハビリを行なうセンターの設立もまた同様である。この機関は、放射能被曝による疾病に悩む人々が必要とする予防とリハビリについて、これまでにない専門的な技術と知識を備えるにいたっている。
[注] キエフエコロジーと健康」連絡・分析センター(英・仏・露語)
http://chernobyl-today.org/index.php?option=com_content&view=article&id=49&Itemid=40&lang=en


このパイオニア的なプロジェクトは、他の放射能汚染地域でも、さらには他の原子力事故の場合にも適応されうる、きわめて貴重なものだ。同様のプロジェクトをフクシマの周辺地域でも立ち上げることができよう。原子力技術と放射能のもたらすさまざまな帰結は、人間にとってきわめて現実的な脅威となっている。

眼を塞ぐことさえなければ、核兵器増強競争と民生の原子力エネルギー発展政策が、どれほどバカげているかすぐに理解できるはずだ。フランスの国境線が、チェルノブイリ放射能を帯びた雲や、少し話はかわるが、イタリアからやってくる北アフリカの難民の乗った列車を、魔法の力で跳ね返してくれるように見えるとしても、次第に多くの市民がこの原子力技術に結びついたリスクを意識し始めている。

チェルノブイリとフクシマの事故という悲劇的な局面のほかにも、「小規模の」と形容されるあれこれの事故や、放射性廃棄物原発の解体にかかわる未解決の問題を考慮しなければならない。この後衛の軍事テクノロジーは、公共の財政に、めまいを起こさせるほどの膨大な負担を強いているばかりではない。直接・間接の被曝が人間に及ぼす諸々の帰結は、原子力への依存から少しずつでも脱却することを、真剣に考えるよう我々に促している。

脱原発はもはや単に「幻視者たちの夢」ではなく、いくつかの政府においては、十分に実現可能な一つの政治的選択とされている。そうした政府のうちには、世界経済においてフランスよりもはるかに優位にある、ドイツが含まれることを思い起こしておこう。

原子力にかわる代替エネルギーはすでに存在している。そのことは、かねてから環境保護団体や、多くの有名な研究者・技術者たちが示してきた。そんな研究者・技術者たちからは、「ネガワット」計画[注]も提唱された。しかし、2050年まで環境保護のための制約を遵守しつつ、脱原発を可能にするテクノロジーがあるにもかかわらず、まだ原子力エネルギーの再興という神話にこだわっている国々が存在するのである。
[注]『ネガワット』ペーター・ヘニッケ、ディーター・ザイフリート著 朴勝俊訳 ECCJ刊。「ネガワット」とは「使われなかった電力」のこと。エネルギーの使い方を変えて、「使われなかった電力」=「節電所」を建設しようというのが本書の主張である。発想を変えてみると日常生活や企業の中でもその可能性が意外と高いことに驚かされる(ドイツの実践例でそれを示している)。企業や行政のみならず、NPOや、地球温暖化防止と省エネルギーに取り組むすべての人たちに示唆と勇気を与えてくれる一冊。http://www.eccj.or.jp/book/new23.html


ヨーロッパのエネルギーの未来と温室効果ガスの削減は、今後10年間の我々の投資にかかっている。原子力エネルギー推進者と再生可能エネルギー推進者の対抗関係のなかで、「古き良き」原子力テクノロジーを選択するのか、それとも反対に、持続可能で責任ある未来を建設するのを可能にするテクノロジーを選択するのかは、ひとえに我々自身にかかっているのである。


Yuri Bandajevsky, Michèle Rivasi et Daniel Cohn-Bendit


ユーリ・バンダジェフスキー(解剖病理学教授、ゴメル医科大学学長[ベラルーシ])ミシェル・リヴァジ(ヨーロッパ議会議員、Criirad放射能に関する独立研究・情報委員会 [注] 創設者)
ダニエル・コーン=ベンディット(ヨーロッパ議会 緑の党グループ代表)[注] 放射能に関する独立研究・情報委員会。チェルノブイリ事故の際、フランス政府は、フランスが遠隔地にあるので放射性物質の「雲」からいっさい影響を受けないと述べ、多くの人々が放射性物質に汚染された牛乳、チーズ、野菜などを食べることになった。このことをきっかけとして、1986年に結成されたフランスの非営利組織(アソシアシオン)。本ブログ4月11日の項「フクシマ:惨事を市民のコントロール下に!」も参照。


(trad. KO)


参考:チェルノブイリ原子力発電所事故Wikipediahttp://ja.wikipedia.org/wiki/チェルノブイリ原子力発電所事故
「4号機では依然、緊張が続いている」―中日新聞http://www.chunichi.co.jp/article/column/syunju/CK2011042702000010.html
「フクシマ 人類の記憶に」…チェルノブイリ事故25年、原子力サミット―産經新聞http://sankei.jp.msn.com/world/news/110420/erp11042000510002-n1.htm
独 10万人以上デモ―しんぶん赤旗http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-04-27/2011042705_01_1.html
日本大使館からデモ行進 伊反原発団体ら―47NEWShttp://www.47news.jp/news/2011/04/post_20110427005800.html
原発いらない チェルノブイリ事故25年 札幌で市民集会―北海道新聞http://www.hokkaido-np.co.jp/news/sapporo/288912.html
東電本店前、福島の牛伴い抗議「早く賠償を」ー読売新聞http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110426-OYT1T00470.htm
東京電力本店前でデモ 原発廃止を訴え―日テレニュースhttp://news24.jp/articles/2011/04/27/07181719.html
避難者も反原発訴えデモ 大阪で200人ー朝日新聞http://mytown.asahi.com/osaka/news.php?k_id=28000001104270002
東日本大震災:「市民で議論を」 松江市原発考える集会―毎日新聞http://mainichi.jp/area/shimane/news/20110426ddlk32040627000c.html
チェルノブイリ原発事故:25年 反原発訴え、市民デモ /鹿児島ー毎日新聞http://mainichi.jp/area/kagoshima/news/20110427ddlk46040619000c.html


原発運動の情報については「福島原発事故情報共同デスク」へhttp://2011shinsai.info/